食事摂取基準は健康な個人または集団を対象としたものです。あくまで基準で「真に」個人適応したものではありません。その個人の健康・栄養状態、生活状況を十分に考慮する必要があります。また、病人の場合は、参考程度にし、病気のときの適正な栄養量は、主治医に相談するのが基本です。
1.推奨量、目安量、目標量については、日常の食生活において、通常の食品によってバランスのとれた食事をとることで満たすことを基本にしています。
2.上限量については、通常の食品による食事で一時的にこの量を超えたからといって健康障害をもたらすものではありません。通常の食事以外にいわゆる健康食品やサプリメントなどの摂取に注意をうながすものです。
3.高齢者は、咀嚼(そしゃく)能力の低下、消化・吸収率の低下、運動量の低下などがみられ、これらは個人差が大きいものです。高齢者に用いる場合には特に個人差を考慮します。
1.習慣的な摂取量が推定平均必要量以下の人は、推奨量を摂取するようにします。この習慣的なということも重要です。1皿、1食、1日を問題にはしていないということです。では、どのくらいの期間かと聞かれますと、現時点では科学的な根拠に基づく明快な回答はありませんが、基準値の設定にあたっては、健康な人の場合には1カ月くらいを想定しています。
2.推奨量が示されていない場合は、習慣的な摂取量が目安量あるいは目標量に近づくようにします。同じ栄養素でも両方の数値が示されているものもありますが、使用目的によって使い分けるとよいでしょう。なお、目標量の多くは生活習慣病の予防や治療のための食事療法の考えかたとおおむね一致しています。
3.サプリメントや健康食品を使う場合には、上限量を超えないようにします。この場合、食事からの摂取も含めての量になります。特に、数種類のサプリメントを利用する場合には注意が必要です(医師から処方されている薬剤を見落とさないようにします)。
適正な栄養摂取量は、年齢や性別で異なることは当然ですが、からだの大きさによっても違ってくるので、基準となる体位を定めています。この数値は、1歳以上は国民栄養調査、0歳から11カ月は乳幼児身体発育調査のそれぞれの中央値体位から求めたものです。したがって、自分の摂取基準を求める場合には、この数値に対して、自分の体格を比較して増減すればよいことになります。この場合、成人では現在の体重がエネルギー摂取を反映しているので身長だけを考慮すればよいことになります。ただし、基準となる身長を参考にして増減する場合に、現在の体重が基準となる体重と大きく違っている場合には、いきなり基準量を摂取するのは好ましいことではありません。
成人の場合にはエネルギー不足は、体重減少、やせ、たんぱく質・エネルギー栄養失調症の原因となり、反対に過剰の場合には体重増加や肥満を招くことになります。したがって、標準体重に変化がないことが望ましいエネルギーの摂取量という考えかたをとっています。エネルギー必要量は体位だけでなく活動量によって異なるため、活動量別に次の計算式で求めています。
推定エネルギー必要量=1日の基礎代謝量×身体活動レベル
身体活動レベルと推定エネルギー必要量は表に示しました。
自分の推定エネルギー必要量を調べる場合には、現在の体重が普通体重(BMIが18.5≦〜25)(→BMI(ボディー・マス・インデックス))の人は基準体位ですので前述の表をそのまま使い、自分の身体活動レベルに合わせた数値を適用します。
なお70歳以上では、身体活動レベルをI=1.30、II=1.50、III=1.70で計算されています。
この体位より身長が高ければ基本的にはエネルギー必要量はふやしてもいいことになります。反対に身長が低い場合には少なくします。エネルギー量が適当かどうかは体重の変化で判断し、現在の体重を維持できれば適当ということになります。ただし、身体活動レベルが「低い」のエネルギーで体重維持がされていた場合には、食べる量をふやし、活動的な生活を心掛けます。自分の体重と普通体重との差が大きい人は調整が必要となります。体重が多い人は身体活動レベル「ふつう」のエネルギーを摂取してみます。これでやせない場合には、食べる量を減らすのでなく運動をしましょう。反対に太ってしまうようであれば、運動をして食べる量も減らします。
成人の場合には、健康であればエネルギー摂取量の適正は体重にあらわれますので、体重をはかる習慣をつけると、健康の自己管理の手段となります。
生命の維持のためのエネルギー量で、考えたり、心臓を動かしたり、消化吸収したりするのに必要なエネルギーです。基礎代謝は、筋肉量によって異なり、筋肉量が多いほど基礎代謝も高くなります。男性のほうが基礎代謝が高いのはこのためです。したがって、筋肉トレーニングをして筋肉量を増やすと太りにくい身体になります。発熱すると基礎代謝が高くなります。発熱時は、食欲がなくなるうえ、基礎代謝が高くなるので体重減少がおきやすくなります。
たんぱく質の食事摂取基準は、推定平均必要量を求め、ほとんどの人に不足の状態が起こらないようにするために「推奨量算定係数」の1.25をかけた数値で示しています。
さらにたんぱく質の食事摂取基準には、過剰摂取を予防するために目標量として、エネルギーの20%以内という数値が示されています。たんぱく質の過剰摂取は動物性脂肪摂取の過剰を招きやすく、腎臓への負荷が大きいなどの理由から2005年版にはじめて定められました。数値はエネルギー比率(%エネルギー)で示されて、総エネルギーの20%未満となっています。実際の目標量(たんぱく質の量:g)は次の式で求めることができます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×0.2÷4kcal
0.2をかけるのは、20%のエネルギーを求めるためです。
4キロカロリーで割るのは、たんぱく質は1gあたり4キロカロリーのエネルギーですので、たんぱく質量(g)を求めるためです。
脂質の食事摂取基準は量と質(脂肪酸)の両方が示されています。量はエネルギー比率で示され、総エネルギーに対して、脂質からのエネルギーの割合がどのくらいになるかを示したものです。成人(30〜69歳)では年齢・性別による違いはなく、20%以上〜25%未満となっています。70歳以上では15%以上〜20%未満となっています。これが脂質の量でどのくらいになるかは次の式で求めます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×(0.2〜0.25)÷9kcal
計算式の意味はたんぱく質の場合と同じですが、脂肪は1gあたり9キロカロリーですので、割る数が9になります。
脂質の場合は、なにから脂質をとるか、すなわち脂質の質が生活習慣病の予防には重要となります。2005年版の食事摂取基準では、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸、コレステロールの摂取基準を表のように示しています。
なお、飽和脂肪酸は獣鳥肉類に多く含まれ、n-6系多価不飽和脂肪酸は大豆油、米油に、n-3系多価不飽和脂肪酸はしそ油、魚油に、コレステロールは、鶏卵、魚卵、肝臓などに多く含まれています。
2005年版の食事摂取基準では、炭水化物についても食事摂取基準が示されました。この数値もエネルギー比率で示され、成人期では性に関係なく50%以上70%未満となっています。炭水化物には、砂糖(ショ糖)、果物に多い果糖、穀類やいも類に多いでんぷんがありますが、生活習慣病予防の観点からはでんぷんでの摂取がすすめられます。
2005年版の食事摂取基準では、たんぱく質の摂取基準量はやや少なくなり、炭水化物の摂取基準量は多くなっています。これは、日本人の栄養摂取が不足から過剰へシフトしたのを反映したものといえますが、この傾向は中高年の現象で、若い女性では不足が問題となっています。
栄養素のうち、たんぱく質、脂質、炭水化物(おもに糖質)の3つの栄養素のみがエネルギーになります。エネルギー量は1gあたりそれぞれ4キロカロリー、9キロカロリー、4キロカロリーで、脂質はほかの2つの栄養素とくらべて高くなります。
エネルギー比率は、総エネルギーがたんぱく質(protein)、脂質(〈lipid〉。食品からとる脂質の多くは脂肪のため食品中の脂質は〈fat〉といわれる場合が多い)、炭水化物(carbohydrate)から、どのくらいの比率でエネルギーをとっているかを示すもので、それぞれの頭文字をとってPFCバランスといわれます。
生活習慣病予防においてはこの比率が大切となります。基準となる値は、P:F:C=10〜20%:20〜25%:50〜70%とされています。
食物繊維は推奨値が示されていませんが、食物繊維は、現在、日本人に不足している栄養素と考えられており、目安量と当面の目標量が示されています。
摂取量を目標量に近づける栄養素として位置づけています。
これらの栄養素は、栄養素がからだのなかで使われたり、細胞・血液・ホルモンなどをつくるときに必要とする栄養素なので、個人の体格による違いはあまりない栄養素です。国民栄養調査の結果では日本人に不足している栄養素はカルシウムと鉄で、この傾向は若い世代ほど顕著に見られます。
2005年版の食事摂取基準で目標量が示された栄養素は、次の目的で決められました。これを知ることは、食事療法をおこなううえで食事摂取基準を参考にするときに役立つと思います。
増加を目指すもの…食物繊維、n-3系脂肪酸、カルシウム、カリウム
減少を目指すもの…コレステロール、ナトリウム
わたしたちは栄養をおもに食事からとります。どんな食品(種類)を、どのくらい(量)、どんなふう(料理、組み合わせ)に食べたらよいのか次に示します。
食品は同じ仲間(たとえば穀類・魚・野菜など)であれば、栄養成分は近いという性質をもっています。この性質を利用して、よく似た栄養成分をもつ食品を食品群としてグループ分けし、違う群から満遍なく食品を選ぶことでいろいろな栄養成分を簡単にとることができるというものです。食品群にはいくつかの種類があります。
厚生労働省が示したもので、食品を1群から6群に分類しています。
この分類にしたがって、指導する人が対象者にあった量(g)を示すようになっています。標準的な量は示されていません。
食品を大きく4つに分類しています。
80キロカロリーを1点として、1点あたりの食品重量で食品のエネルギー量を示し、標準的な食べかたとして1600キロカロリー(20点)の基本を示しています。
食品を表1から表6と調味料に分類しています。80キロカロリーを1単位として、1単位あたりの食品重量で食品のエネルギー量を示しています。標準的な食べかたとしてエネルギー別に基本を示しています。
調理法を工夫することは、食事療法を考えるうえでも大切なことです。「炒める」「揚げる」という調理法は油脂類をたくさん使います。また、サラダはマヨネーズやドレッシングではやはり油を多く使います。反対に「焼く」「蒸す」は油脂をあまり使いません。おひたしや酢の物も油を使わない調理法です。油脂を使う調理法と使わない調理法を組み合わせることで脂質のとりすぎは防げます。
食塩についていえば、煮もの、汁ものはしょうゆや塩を使わないとおいしくできません。焼きものや揚げものは塩を使わなくても調理ができます。このように、食塩を使わなくてもできる料理とできない料理を組み合わせ、食卓で使うしょうゆや塩で食塩の摂取量を調節すると、食塩制限をしている人も家族と一緒に減塩食が実践できます。
栄養のバランスをとるためには食事のつど「3つの皿」が基本となります。
牛乳・果物は3食のうち、どこかでそれぞれ1日に1〜2回に分けて食べます。
栄養素には、たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、水があります。それぞれの栄養成分はからだのなかで、違ったはたらきをしていますが、同時にたがいに一定の関係をもちながらはたらいています。たとえば、たくさん食べてもビタミンB1、B2が不足していると、食品のもっているエネルギーをうまく利用できなくなります。また、たんぱく質がはたらくにはビタミンB6が大切な役割を果たしています。
また、からだにいいからといって特定のミネラルやビタミンをサプリメントとしてたくさんとってもそれらを必要とする栄養成分をとらなければむだになったり、必要としない場所にたまったりしてしまいます。食品は栄養成分からみた場合に、完璧なものはありません。偏った食品を食べ続けると栄養障害をきたします。
いろいろな食品を使ってさまざまに料理することがバランスを整える簡単な方法です。食卓を楽しくすることも健康的な食事の基本といえるでしょう。
参考に1600キロカロリーの食品の組み合わせ例を示しました。
もちろん、食品の選びかたでエネルギーもたんぱく質も多少は違ってきます。この例には、調味料が含まれていません。
しょうゆ・塩・酢などはふつうであればエネルギーやたんぱく質の量は問題にはなりません。みそはみそ汁1杯程度であれば、エネルギーもたんぱく質も考慮するほどではありませんが、みそ炒めや田楽の場合のようにたくさん使う場合には大豆製品で調節するようにします。
また食塩はかなりふえますので、しょうゆや食塩の量には十分に気をつけます。さらに、市販のカレールー、麻婆豆腐の素などの複合調味料にはエネルギー、たんぱく質の多いものがあるので注意が必要です。いうまでもなく、これには間食やアルコールは含まれていません。